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死体の一部が足りない。
それは、首、だったのだろう。首だけが見つからなかった。
「そんなわけない……、首だけで生きられるわけないじゃないか」
幻覚を見たのだろうか。直之は人気のない夜道で一人身震いした。
きっと、心の底に残っている不安が幻覚を見せたのだ。それか、これは、やはり夢。
尻が冷たい。コンクリートの硬い感触。自分は覚醒して、道端に座りこんでいる。夢ではない。現実に、杏珠が首だけで復讐に来たのだ。
そして美雪が殺された。
「美雪……」
直之は顔を両手で覆い、泣きじゃくった。愛していた。最高の女だったのに。
直之はしばらく泣き続けた。恐怖と失望で足は萎え、立ち上がることすら出来ない。美雪の名を呼んで、すすり泣く直之の耳に、ハイヒールの音が聞こえた。
思わず顔を上げた。暗い道路の向こう側から人が歩いてくる。
街灯に照らされた女の下半身を見て、言葉を失った。見覚えのある細長い脚。美雪の履いていたミニスカート。
まさか。
「美雪?」
やはり夢を見ていたのだろうか。直之は涙を拭ってなんとか立ち上がった。
「直之」
その女は言った。
杏珠の声だ。
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