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追いかける女
「別れよう」
直之は言った。ティーカップを口元に運んだ杏珠は、突然の科白に驚いていた。カップを持つ手が宙で止まっている。意味を理解するのに三分はかかった。暗い目を上げて、恋人の顔を見つめた。
反応の鈍い杏珠に、直之は舌打ちをしたい気分になった。
「別れたいんだ」
もう一度言ってみた。直之はグラスに浮かぶ氷に目を落として、杏珠が口を開くのを辛抱強く待った。杏珠は何も言わない。
これだから嫌なんだ。直之は内心で頭を抱えた。
この女は鈍くて暗くてつまらない。一緒にいると、気が詰まって仕方がない。友人が引き合わせた女だったから今まで我慢を続けたが、もう限界だった。
杏珠、という可愛らしい名前とは裏腹に、覇気がなく、地味で、見た目も冴えない。陰気な女にはこりごりだ。よく半年も付き合えたものだ。表彰されてもいいくらい、自分は頑張った。
杏珠は普通のOLで、直之は大学生だった。お互いに二十歳ということで、話も合うだろうと思っていたが大間違いだった。杏珠は話題を振ってもそれに乗ってくることはまずないし、会話が途切れてしまうのが常だ。そういう寒い関係はもう終わりにしたい。
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