藤壺の君

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「おっまたせー」  でかい弁当が入っているのだと分かる袋を下げた源二が店から出てきたので、煙草を灰皿に押し潰して公園に向かう。 「わぁー、この公園、藤棚があるんだね。あそこで食べようよ」  右手に滑り台とブランコとジャングルジムがあり、あとは子供達が走り回れるようなスペースの広がった公園。最奥にある薄紫の屋根の下に置かれたベンチを指差し、綱を解かれた犬のように走り出す源二。小さな手によくそんな力があるなと感心するほど、俺の服の裾を死んでも離さないという位に掴み、金魚の糞のように後を付いて回っていた頃と変わらない、その無邪気な後ろ姿をゆっくりと追う。  藤棚の下のベンチに座り、ガツガツと弁当を掻き込んで数分で平らげた源二に呆れながら、妻の作ってくれた栄養バランスの整った弁当を胃に収めていく。  食後にコーラを一気飲みした源二は、待ってましたと言わんばかりにジャングルジムに向かい、猿のように天辺まで登って空を仰いでいる。首筋にくっきりと浮かびあがる雄々しい喉仏。それに釘図けになってしまった視線を慌てて外し、妻の弁当に集中させる。   
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