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私と瀬木は、亜希を処置室に残し、いったん廊下に出た。
「大成功だったな」
瀬木は感慨深げな様子だったが、私は何も答えなかった。
ただ歩くスピードを速めた。
「今日、この後の処置は、瀬木にお願いしていい?」
私は歩きながら、手袋を外し、施術着を脱いだ。
「僕が?」
瀬木は成功の余韻に浸らない私を、不思議そうな顔で見た。
「医者なんだから、当然でしょ」
瀬木は困惑気味だったが、手も足も震えていなかった。彼の憑き物も取れたようだった。もう大丈夫だろう。
「私はこれから、行かなきゃいけないとこがあるから」
「どこへ?」
それには答えず、廊下を走った。自分のスタジオで着替えを終え、再び廊下を抜けた。
クリニックの玄関口の靴入れからシューズを取り出し、座り込んだ。
その様子を後方から、瀬木は黙って見ていた。
「あ……」
シューズに足を入れてから、気が付いた。
「何、どうした?」
瀬木が私の背後から顔を覗かせる。
「傘、スタジオに忘れちゃった……」
「何言ってんだ」
「え?」
「もう晴れてるよ」
瀬木は入り口まで歩き、扉を勢いよく開けた。
入り口から差し込む光に、私たちは晒された。院内の暗さで気が付かなかったが、
いつの間にか雨は止み、黒々とした雲は跡形もなく消え去っていたようだった。
「帰ってきたら……。その……また、一緒にやるだろ?」
瀬木は頭を掻きながら、私を見た。
「当たり前でしょ」
私はシューズの紐をしっかりと結んだ。
「一生、彫師でやっていくんだから」
満面の笑みでそう答えると、瀬木は照れ臭そうに口元を緩ませた。
「……気を付けてな」
玄関から外へ、一歩踏み出した。
柔らかな日の光が、クリニックの外観を包み込んでいる。
私は走り出した。
季節はずれの暖かさは、どこまでも、どこまでも、走る私を照らした。
行く場所は分かっている。橋はもう架かったのだから。
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