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その男性客と入れ替わるように、別の男性客が入ってきた。スーツを着た真面目そうな男性だった。
知らない顔だった。今日は新規の予約もない。だが見知らぬお客が、突然このお店に入ってくることは、まずあり得ないことだった。
私がこの業界に入ったのは八年前。独立してタトゥースタジオを開業したのが半年前のことだ。ホームページもなく、お客のほとんどが知り合いか、その紹介に限っていた。
今使っているスタジオもマンションの一室を改装したもので、小規模で看板も掲げていない。新規のお客が飛び込みで訪れるはずがないのだ。
「どうも、先日は……」
玄関口に立っている男は私を見るなり、頭を下げた。
そして、手にしていた袋から菓子折りを取り出した。
「これは、ほんのお詫びにと、思いまして……」
男の顔をよく見て思い出した。
「あー! セクハラ野郎!」
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