13人が本棚に入れています
本棚に追加
男は謝罪をしながら、私に菓子折りを渡してきた。
勢いで受け取ってしまったが、いらなかった。
「こんなのいいから、帰って欲しいんだけど」
菓子折りを返そうとしたが、男は「まぁ、そう言わず……」と、受け入れない。
「……というか、何で私の居場所、知ってるわけ?」
「君のお姉さんが教えてくれてね」
あの女……。人の個人情報を何だと思っているんだ――。
私はため息をついて、こう聞いた。
「あんた、一体何なの?」
一見、真面目そうに見えるが、セクハラ男と思うと、見る目も厳しくなってくる。よくよく観察すると、スーツはよれているし、髪もボサボサだ。何とも怪しい。
「ああ、申し遅れました」
男はスーツの懐から、小汚い名刺を取り出し、差し出した。
私は皴のついた名刺をもらい受け、読み上げた。
「瀬木美容クリニック院長、瀬木壮太」
「僕、別に怪しいものじゃないんですよ」
男は軽薄そうに、頭を掻いて笑った。
「医学博士? あんたが?」
目を凝らして男の顔を見てみるが、とても、そうは見えない。
「……はい。じゃあ、分かりました。もう帰って欲しいんだけど」
私はこの男をスタジオの中に入れたくはなかった。ここで帰ってもらいたかった。
「ちょっとだけ、話しを聞いて欲しくて……」
瀬木はなぜかしつこく食い下がる。
最初のコメントを投稿しよう!