第三章 医師免許

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 タトゥーアーティストや彫師たちが摘発された記事だ。彫師は、針を皮膚に刺し色素を沈着させる行為を生業にしている。  この行為が医療行為に当たるのか、そうではないのか、つい最近まで裁判が行われていたのだ。結果は記事の通り、彫師の有罪判決で終わった。  裁判の結果を額面通りに受け取ると、人の身体にタトゥーを彫ることは医療行為に当たり、施術には医師免許が必要になる。免許がない者が施術を行えば違法……。しかし医師免許を持つ彫師というのは、皆無に等しいだろう。 「つまり現状だと、あなたがやっている行為は、違法なわけで……」  私は「うるさい!」と瀬木を怒鳴りつけた。  この男が言うように、知り合いの彫師が実際に逮捕されたという話しも聞いている。廃業になりかねないと、死活問題で苦しみ、悩んでいる仲間もいるのだ。 「違法だから何だって言うの!? バカじゃないの、今更!」  瀬木に言いたいことは山ほどあったが、頭の中で上手くまとまらない。まとまったのは、この男に対する憎悪だけだった。 「元々アウトローな業界だってことは分かってる。違法なら違法なままやっていくだけ。バカらしい。そんなのが怖くてやってられるか!」 「じゃあ、家族はどう思うかな? お姉さんやお母さんは……」  私は初めて人を殴りたいと思った。  昨日のセクハラ行為はまだしも、私が一生を捧げている仕事を違法だと言われ、おまけに『家族はどう思うかな?』だと……。人の気持ちも知らないで。  私はこの仕事に誇りを持っている。一生、彫師でありたいと思っている。
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