第三章 医師免許

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「だから? 何だって言うわけ?」 「アートメイクは医療従事者が行えば問題ない。タトゥーの施術に関しても、准看護士が医師管轄の元、行う分には問題がないはずなんだ。だから、僕のクリニックで、君がタトゥーの仕事をする分には合法的に行えるわけで……」 「合法だから、何なの」 「摘発の心配はない」 「だからって……」 「お姉さんはどう思う? お母さんだって……」 「家族の話しは止めて」 「申し訳ない」  正直言って、瀬木の誘いは魅力的だった。しかし上手い話ほど裏がある。普通に考えて社会的地位の高い医師が、反社会的な彫師と手を組みたがるはずがないのだ。  そして何よりも第一印象が悪く、家族を餌に私を釣ろうとする態度も気に入らない。 「そもそもこの仕事を始めた時から、アンダーグラウンドな商売だというのは分かっていたから。失っていく人間関係があるということも分かってる」 「まだ間に合う!」 「もう帰ってよ!!」  瀬木はうつむいて、頭を掻いた。 「しつこいようだけど、名刺を郵便受けに入れておくから。もし気が変わったら……」  私は何も言わなかった。  瀬木は名残惜しそうに、ゆっくりとドアを開け、出ていった。
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