第四章 幼馴染

3/4
前へ
/70ページ
次へ
 オーナーはお茶をすすりながら微笑んだ。彼は外見とは裏腹に、お客さんの目線に立った気配りができる人だった。  例えば、初めてタトゥーを入れるお客さんには、時間をかけてゆっくりと相談に乗り、覚悟が足りないと感じれば、思い止まるよう促すことも多かった。  それは私も同じ方針だった。  最も、このお店の場合はアニメや漫画という特殊なタトゥーを入れるスタジオのため、彫った後、トラブルになりやすいから、という理由もあるのだが。 「オーナーは施術しないんですか?」 「俺、年齢的に八十年代なら詳しいし、得意なんだけど、それ以上新しいアニメだとね、若い子に任せちゃうんです。どうしてもって言うお客さんなら、俺がやっちゃいますけど」 「ちょっと前ですけど、雑誌でも特集されていましたよね」 「専門店なんで、取り上げられやすいだけですよ」 「羨ましいですよ」 「いや、実際は大変で……」 「そうなんですか?」 「ほら、インクの薬品業者が摘発されたでしょ……」  オーナーは急に真面目な顔になった。 「業者のリストから関係のあったスタジオの人も捕まっちゃってね。実際、友達も廃業しているし……」 「オーナーもですか?」 「真奈さんのお友達も?」 「はい……」 「うちもホームページを消したり、看板を隠したり、色々と対策は打ってるけどね」 「……」 「まいっちゃうよねー。ただでさえ、ニッチなのに。うち……」  オーナーはソファに深く腰掛け、天を仰いだ。  私も他人事ではなかった。
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加