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オーナーはお茶をすすりながら微笑んだ。彼は外見とは裏腹に、お客さんの目線に立った気配りができる人だった。
例えば、初めてタトゥーを入れるお客さんには、時間をかけてゆっくりと相談に乗り、覚悟が足りないと感じれば、思い止まるよう促すことも多かった。
それは私も同じ方針だった。
最も、このお店の場合はアニメや漫画という特殊なタトゥーを入れるスタジオのため、彫った後、トラブルになりやすいから、という理由もあるのだが。
「オーナーは施術しないんですか?」
「俺、年齢的に八十年代なら詳しいし、得意なんだけど、それ以上新しいアニメだとね、若い子に任せちゃうんです。どうしてもって言うお客さんなら、俺がやっちゃいますけど」
「ちょっと前ですけど、雑誌でも特集されていましたよね」
「専門店なんで、取り上げられやすいだけですよ」
「羨ましいですよ」
「いや、実際は大変で……」
「そうなんですか?」
「ほら、インクの薬品業者が摘発されたでしょ……」
オーナーは急に真面目な顔になった。
「業者のリストから関係のあったスタジオの人も捕まっちゃってね。実際、友達も廃業しているし……」
「オーナーもですか?」
「真奈さんのお友達も?」
「はい……」
「うちもホームページを消したり、看板を隠したり、色々と対策は打ってるけどね」
「……」
「まいっちゃうよねー。ただでさえ、ニッチなのに。うち……」
オーナーはソファに深く腰掛け、天を仰いだ。
私も他人事ではなかった。
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