第一章 姉

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「あんた、こんな身体になっちゃってさ……。私も昔はグレてたけど、うちはあくまで普通の家庭なんだからね」  そんなことは分かっていた。 「だから、ずっと連絡取らなかったんでしょ」 「それはそれで心配するじゃない。要は、何で相談も無しにそんな仕事したのかってこと!」 「……ごめんなさい。でも母さんが大変な時くらい会いに……」 「逆に迷惑なんだよ。それが!」  私はグラスを飲み干し、うつむいた。  相談すれば、決意がぶれると思った。当然、反対されると思った。  家族とは離れ離れになるかもしれない――覚悟して就いた仕事だった。    しかし、いざ母親の体調を聞かされると……。 「お母さん、まだあんたが看護師してるって、思ってるよ」  「そうだろうね……」 「人を救う立派な仕事してると思ってる……」 「……姉ちゃん、彫師の仕事だって……」  そう言いかけた瞬間、私の右手を掴む手があった。いつの間にかあのセクハラ男が、私の席の隣まで詰め寄っていたようだった。
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