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――放課後、俺は辺りを警戒しながら教室を出る。月乃と出会ったら面倒くさいからだ。
廊下を駆け、一段抜かしで階段を下りる。1階に到着して、後は目前の角を曲がれば靴箱という所で――
1人の女生徒とぶつかりそうになる。ギリギリで止まったが、俺と相手の鼻先が触れそうな程に距離が近い。切れ長の瞳に見つめられ、俺は慌てて後方へ飛び跳ねる。
「わ、悪い。大丈夫か?」
声をかけるが反応は無い。ただ黙って、こちらを見ているだけ。
ここでようやく相手の姿を認識し、同時に背中へ冷たいものが走る。学校内で彼女を知らない者はいない、それ程までの有名人だったからだ。
【八神 火狩】――同じ1年生ながら既に数々の伝説を残す生徒。誰もが振り返る美貌に、モデルも裸足で逃げ出す程の9等身プロポーション。その上、運動神経もズバ抜けており短距離走と水泳で中学日本記録を保持。頭脳も入試試験を全教科満点で受かったと噂されている。高校入学と同時に生徒会へ選出され、現在は書記をしているが来年には生徒会長確実とまで言われている正に天才。しかも祖父は、売上高が10兆円を超える大企業『八神カンパニー』の創始者だとか。ありとあらゆるチートスキルを天から与えられた【孤高の嬢王】――
そんな奴と、ぶつかりそうになったのである。部活へ向かう途中の生徒や帰宅しようとする生徒達の視線が、こちらへ向けられた。静まりかえる廊下、時間が止まったかのように思えた時……
「貴様ァアアアアッッッ!!!! 火狩様に何という事をッッッ!!!!」
とんでもない大声を発しながら、俺の前に1人の小柄な女子生徒が現れた。
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