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運転席の男が、引きつった顔でこちらを見ている。
スローモーションのようだった。点滅を始めた信号、俺との距離を縮めていくトラック、肩から地面に落ちるカバン。
顔を後方へ向ける。横断を待つ人達に紛れ、一本の腕が伸びている事に気付く。俺が立っていた場所だ。
腕まくりをしているのか服の袖は見えない。色白く細い腕、男女の区別はつかない。黒い革手袋をはめているのは防寒の為か、それとも……
指紋を残さない為なのか。
ゆっくりと腕が群衆の中へ紛れていく。待て、お前は一体誰だ。何でこんな事を。
目前に迫るトラック。嫌だ、こんな事で死ぬなんて。まだ何も成せていないのに。
悲しそうな表情をする空哉と、涙を流す月乃の姿が思い浮かぶ。
恐い。恐い。恐い。死にたくない。死にたくない死にたくない。
死に――――
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