―日常編―『崩壊と邂逅』

13/24
前へ
/42ページ
次へ
運転席の男が、引きつった顔でこちらを見ている。 スローモーションのようだった。点滅を始めた信号、俺との距離を縮めていくトラック、肩から地面に落ちるカバン。 顔を後方へ向ける。横断を待つ人達に紛れ、一本の腕が伸びている事に気付く。俺が立っていた場所だ。 腕まくりをしているのか服の袖は見えない。色白く細い腕、男女の区別はつかない。黒い革手袋をはめているのは防寒の為か、それとも…… 指紋を残さない為なのか。 ゆっくりと腕が群衆の中へ紛れていく。待て、お前は一体誰だ。何でこんな事を。 目前に迫るトラック。嫌だ、こんな事で死ぬなんて。まだ何も成せていないのに。 悲しそうな表情をする空哉と、涙を流す月乃の姿が思い浮かぶ。 恐い。恐い。恐い。死にたくない。死にたくない死にたくない。 死に――――
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加