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「俺と賭けをせぇへんか? あのジジイが30分以内に戻ってこれるかどうか」
黒服は何も答えない。ただ黙って前を見続けている。
「雑誌のタイトル、領収書の宛名、コーヒーの銘柄。何も聞かずに出ていきよった」
少年は懐から何かを取り出す。それは先程、車から出ていった男の生命保険証だった。
「コンビニ前にある道路、車の往来が激しいから心配や。反射材もつけてないジジイが、匍匐で横断すんのに気付いてくれればええけどなぁ」
黒服の背中が再び震える。今度は驚きのせいではない。
「さて、そろそろこっちも本気出さな。期限も押し迫ってきてる事やし」
再びスマホを取り出し、少年は操作を行う。そんな最中、少し離れた所で何やら大きな音が聞こえた。女性の悲鳴も聞こえて来る。
「……最近、急に腹が痛くなんねん。何なんやろコレ、盲腸でもあるまいし。まぁええ。30分、過ぎてもうたな。ゲームオーバーや。車出して」
黒服はアクセルを踏み込む。横切ったパトカーのサイレンが、やけにうるさく聞こえた。
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