1 ある法医学者の泣き落とし

1/6
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ

1 ある法医学者の泣き落とし

 関東某県の国立大学法人C大学の片隅に位置する医学部棟のさらに片隅で女の悲鳴が響きわたったのは、盆休みが明けたばかりの8月17日のことだった。 「いーやあああああああああああー!!!」  岩瀬(いわせ)尋花(ひろか)は叫びながら教室を飛び出した。ピンクのミュールでフロアを端から端まで突っ切って最奥の給湯室に駆け込むと携帯電話を取り出し、通話アプリから親友を呼び出す。盆休み明けとはいえ学生はまだ授業期間外で、職員もまだ休暇中の身が多いため、幸いにして尋花の奇行は誰にも見咎められることはなかった。 「透子ちゃぁぁぁぁぁん! 助けてぇぇぇぇぇ!!」 『――うるさい。夏休み中に何よ、ヒロ』     
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!