今日はなんの日?

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 黒板にチョークで書かれた日付を見て、ため息がこぼれる。この教室の、もっというと学校全体の空気感が、今日だけはどうしても苦手。  急いで教科書をロッカーに突っ込んで、コートを一旦着込んで、足早に廊下に出た。向かうは音楽室。放課後の部活は、好き。  音楽室の扉を開けると、既に何人か集まっていた。そこに一歳上の先輩もいる。と、言ってもあの人は私の兄だけど。親が再婚した連れ子同士で、血の繋がりはない。父も、向こうのお母さんも音楽が好きだから、子供もその影響を受けて私も彼も音楽が好きで自然と部活は同じになってしまった。家でも顔を合わせるのに、学校にいる時まで会うのは、良いのか悪いのか……。  四人の家族生活が始まって二年。私もしばらく父との二人暮らしが長くて、今更兄ができても、兄とは思えない。別に仲が悪いわけでもないし、音楽の話だって合うから、盛り上がる……けど。だけど、話してる時にたまにある沈黙に息が詰まるの。  高校だってそう。彼が入学した学校を別に追いかけたわけでもないけど、吹奏楽に力を入れている学校を選んでたら、一緒になってしまっただけ。  ばかだって、自分で気づいたのは六月くらい。そして、さらに月日が流れて年が明け、今日は二月の中旬の女子達が沸き立つその日となった。 「ねぇ、もうあげたの?」  隣のクラスの佳奈が不意に私に話しかける。あげたも、何もあげる人なんて居ないよ……。言おうとした言葉は、声にならなかった。  その投げかけられた言葉は、本当に私にとって禁句で、身体はビクついた。自然と目線をそらしてしまったその先に、目に止まってしまったのは、どうしようもないことに、兄だった。私だけ追いかけてしまっただけだったら良かったのに、佳奈の声は妙に響いて、離れた場所にも関わらず多分、彼の耳にも入った。……だって、都合よくこのタイミングで、あっちも私を見るなんて。 跳ね上がる心臓の止め方を、私は知らない。
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