今日はなんの日?

3/3
前へ
/3ページ
次へ
 それから、気まずくて集中できないままに部活は終わった。練習はちゃんとできたのか、部長はなんて言ってたのかすっかり頭から抜けていた。  ただ平穏に乗り切れば、今日は終わってくれる。あと六時間の我慢。そればかりを考えてた。  ……だけど冬の十八時は暗くて、兄は当然、夜道を付き添ってくれるから、気まずさは更に増していく。  さっきの会話は聞かれていたのか、聞けるわけも無くて、長い長い沈黙の中ーー。  破ったのは彼からだった。 「ちょうだい」  と、笑うように言われた。  俯いてた私は、その表情を見れるわけもなく、その言葉の意味を確認するのも怖くてできないまま、凍りついた思考で咄嗟にコートのポケットに手を突っ込んだ。飴玉の中身のないゴミを捨て忘れてたまま、入ってて、それを私は手の平に閉じ込めて、ぐーのまま差し出した。  彼の開かれた手の平に触れる時、一瞬どきっとしてしまう。  そして、彼はまた笑う。 「なにをくれるかと思えば、ゴミかよ」  って責めるわけでもなく、苦笑しながら。  何事もなかったように、笑ってくれた。  そして、それ以上会話は続くことなく、ぎこちない空気は絶えず私達の間にたちこめる。  その上、後悔の渦はぐるぐると加速した。  本当は、「何言ってるの~? 男子はみんな期待するよね」って笑い飛ばせば良かったのかなって。それとも、「何を?」ってちゃんと向き合って確かめれば良かったのかも。私が顔を真っ赤にして戸惑えば、あっちは「なに焦ってんだよ。嘘だよ」って笑い飛ばしてくれのか、そんなことを考えても、今さら遅い。  私はただ怖くて、誤魔化すことしか出来なかった。  あの日から続く、行き場のない想いに、私は願う。  ーーどうか、こんな気持ちは跡形もなく消えて無くなれば良いのに……。  逃げ続けるであろう来年の今日は、気楽に過ごせますように、と。  
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加