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1 ――わたしは、幼い頃から眩しく憧れ続けていた人のもとに嫁ぐ。 この国の王となることが決まっているひと。 聡明で凛々しく、思いやりに溢れて誠実な御方。 「誠実」? いいえ。 「誠実」などではない。彼は大嘘つきだ。 国を皆を、欺きとおして生きることを決めたひと。 でもその尊いお方は、その「嘘」を、わたしにだけは告げてくれた。 そうでなければ、神々の前、妻となり良人となる誓いを立てることはできないからと。 この上なく不実で、そしてこの上なく誠実な、わたしの愛しいひと。 わたしは、彼を愛さずにはいられない――  *  現国王ラクナルVI世の長子アルトナルは、民からの信のあつい王子だった。  その名のとおり、黄金色の鷹の瞳、逞しい肩を持ち、背が高く。  刀身のように整った鼻筋、男らしい顎。  意思の強さをにじませる、完璧な形のくちびる。  そしてアルトナルは、はや初陣で目覚ましい活躍をみせて以来、常に戦を勝利に導いてきた。  しかしながら、単に血に餓えた野獣というわけではなく、無益な戦に刀を抜くことは、決してなかった。  アルトナルは、まさに「神々から愛された」王子だと、皆が詩に唄う。     
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