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それはわたしの、まごうことなき本心だった。
嘘偽りなど、どこにもなく。
けれど、何も分かってはいなかったのは、わたしの方だった。
この先にどれほどの苦しみが待ち受けているのか。
偽りの婚姻が、どれほどつらいものなのか。
たとえ、どれほどアルトナルを愛していようとも。
否、愛すれば愛するほどに、そのつらさは堪えようもない重荷となることも。
なにも。
何も分かってはいなかった――
わたしはただ、寄る辺ない幼子のように、アルトナルの逞しい腕に胸に縋りつく。
「アルにいさま。どうぞ、どうぞ、このまま傍にいてください。一緒にいて。わたしを抱き締めていて」
「案ずるな、ソウレイ。我はどこへも行かぬ」
アルトナルは穏やかに、優しい声で応じてくれた。
そう、わたしに頼まれずとも。
今日だけは、どこに行くはずもないのに。
今宵は婚礼の夜。
たとえ見届人が、部屋の外に居なくても、今夜ばかりは、わたしとひとつ床に眠り、ともに朝を迎えないわけにはいかない――
あの夜ばかりは。
アルトナルとて、わたしと過ごさざるを得なかったのだと、後になってみれば、「ただそれだけのことだったのだ」と分かるのに。
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