87人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
3
3
――我の妻となるにせよ拒むにせよ、一生誰にも洩らさぬと誓ってくれ。
聞かなければよかったのだ。
あの時、何も。
でも、逞しい腕に抱き寄せられて、耳元で囁かれて。
そんなアルトナルを拒むことなど。
あの時のわたしに、どうしてできただろう――
「思い合う相手がいる」
アルトナルはそう告げた。
わたしの息が止まった。
ああ、その時になぜ、心臓も止まってしまわなかったのだろう。
「どう…して、アルにいさま、なぜ、その方をお娶りにならないのですか」
震えながらも、わたしはかろうじてそう訊ねた。
「その者」とは、結ばれることはできないのだと、アルトナルは、ひどく落ち着いた口調で応じた。
「どうしても」と。
身分が違うということだろうか?
いいえ。たとえその相手が、奴婢であったとしても、アルトナルが望めば、手に入れられないはずはない。
確かに、臣会の全会一致の議決を得るのは難しいかもしれない。
でも、アルトナルに心酔する大臣は多い。
その奴婢を養女にし、自らの娘としてアルトナルの妻へと差し出すことなど、歓んで引き受けるに違いないのに。
最初のコメントを投稿しよう!