87人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
小娘のわたしにすら、それくらいのことは、もう分かる。
今はもう亡いとはいえ、仮にもうちは王妃を輩出した家柄なのだ。
アルトナルは、最初からわたしにすべてを打ち明けるつもりだったのだろう。
わずかばかりの逡巡の後、落ち着いた低い声でこう続けた。
「相手は近衛隊の長。我の妻とすることはかなわない」
近衛の長……。
白斑流星の黒馬に跨る鎧武者。
その姿かたちは、わたしもすぐに思い浮かぶ。
貴族の娘たちのみならず、国の女たちのあこがれの的である、黒い髪に氷河の蒼の瞳をした美丈夫。
「だって、にいさま……」
ただ座って語らっているだけなのに。
わたしの息は上がり切ってしまい、苦しくて堪らなくなって、ゼイゼイと声がかすれる。
「アルにいさま、そんなの…だって……」
「そうだな。シグルドは男だ」
言ってアルトナルは、小さく笑んだ。
「だから、あれを娶るわけにはいかない」
わたしはもう声も出せず、ただ瞬いて息を飲み込み続けた。
「そして、あれ以外の者と肌を重ね合うことも、我にはできない」
「……アルにいさま」
なのに、アルトナルにいさまは、わたしを「娶りたい」と?
后にしたいとおっしゃるの?
分からない。
まったく、分からなかった。
最初のコメントを投稿しよう!