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「お前には、我に妻として抱かれることはまったくないと思っていて欲しい。だが、我の子を産んで欲しいのだ。王家の血を絶やさぬために」
*
わたしの寝室とアルトナルの寝室は壁を挟んで隣り合う。
初夜を過ごしたのは、アルトナルの寝室だった。
二つの部屋は、両開きの固い樫の木の扉でつながっている。
その扉は、いつも開かれていた。
――夜になるまでは。
ほぼ毎夜。
気高き王子のもとを訪なうひとがいる。
黒馬の騎士。
王と王子の背を護る国随一の勇者、近衛の長シグルドが。
そしてわたしは毎夜、ほんの僅かだけ、続き部屋の扉を開けておく。
睦みあう男たちの声はとても低くて、夜の静けさの中でも、ほとんど聞こえることはないけれど。
交わす愛が高まるにつれて、それは少しずつ音量を増していった。
寝台の軋み。
打ち付け合う肉の音。溜息。
愛しい相手の名を呼ぶ、いぶしたようにかすれた大人の男の声。
冷たい敷布の上に横たわって、わたしはひたすら、それらに耳を傾け続ける。
むなしくて、なさけなくて。
悲しくて。
まなじりに涙をにじませながら。
薄い寝着の合わせ目に、自らの指をさし入れる。
胸の尖りを指で捏ね回し、脚の間に、もう片方の手指をねじ込んで。
薬師に教わった「その場所」を、中指の腹で押し込んで擦り上げた。
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