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まだ、なりませぬ。
今は。
そう告げられたとて、身体の疼きと痺れは止めようもない。
王城で初めて覚えた自慰の悦楽は、わたしにとって、まだ自由に操れるようなものではなかった。
だから、その場所を擦り上げる指先は止まらない。
薬師が、低く詫びの言葉を告げながら、わたしの手首をさらにきつく捻り上げ、陰部から指を引き離していった。
「いや、手を、はなして、はなし…て」
駄々をこねる幼子めいて、薬師から逃れ手淫を続けようと、わたしは身をよじる。
快楽の頂点は、もうすぐそこに、手の届くところにまで迫っていて。
刺激を止められるのは、切なくてせつなくて堪らなかった。
腿をきつくとじあわせ、わたしは腰を蠢かせる。
僅かでも、その場所の疼きを宥めたくて、ひとりでに身体が動いた。
それでも次第次第に、息遣いと鼓動とが静まっていく。
そして、わたしの耳は隣室の音を拾い始めた。
醒めゆくわたしとは反対に、隣の部屋の寝台の上では熱い吐息と悲鳴じみた嬌声とが、激しさを増していた。
打ち付け合う肌の音。
ひどく悲しげにも響くほど必死に、愛しいひとの名を呼ぶ夫の。
アルトナルの声が聞こえ始める。
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