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わたしが訊ねれば、政務のことも外交のことも、それぞれ平易な言葉で丁寧に説明をしてくれた。
そして「なにぞ、不自由はないか」、「身体の具合は?」と、優しい声で囁きをくれる。
時には、馬の背にわたしを乗せ、草地や街へと連れ出してもくれた。
「民たちにも、可愛い我が后の姿を見せてやらねばなるまい」と言って。
そうやって、仔猫を触るようにして頬を撫でてくれるアルトナル。
わたしは、その指先にしがみついてくちづける。
アルにいさま。
夢のように、お優しいにいさま。
日差しの内でだけは。
完璧なわたしの良人――
そして、そこにはいつも。
陽のもとには必ずできる影のようにして、あの人もいた。
王子の背を護る。
騎士シグルド。
アルトナルと彼の視線が交わることは、決してない。
この明るい、日差しのもとでは。
*
麦穂がこうべを垂れ始める頃。
王城では、臣会を構成する高官たち貴族たち、そして豪商らを集めた宴が催される。
アルトナルは、わたしに素晴らしい支度を整えてくれた。
「お前の金の巻毛には、春の空の色が映えるだろう」
そう言って、薄青の絹がたなびく金銀の刺繍を施した正装の衣と、長い白珠の首飾りを与えてくださった。
まあ、なんと愛らしいのでしょう、ソウレイさま。
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