1/5

87人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ

6  今宵の宴ばかりは、妻や家族を連れての列席が認められていて、座はことのほかの賑わいを見せていた。  季節は夏至に向かっている。  陽はまだ高いままで、あたりはとても明るかった。  アルトナルが姿を現せば、彼を讃える声がさんざめくのは常のこと。  その王子に、しっかりと手を握られて歩くわたしを、アルトナルを崇拝する民たちが、無視することなどできはしない。  だから、アルトナルの耳に入るような声で、皆は言うのだ。  ――お后さまは、なんと愛らしい。  ――本当にお名のとおり、春の野の金鳳花(ソウレイ)のよう。  小さな白や黄色、一重や八重のソウレイは、誰もに愛され、いとおしがられる花。  けれどその花は、可愛らしくとも、豪奢でも華やかでもない。  こんなにも輝かしい、たぐいまれなる王子アルトナルの傍にいるには、ささやかすぎる。    「可愛い金鳳花さん」というのは、世の親たちが、自らの宝物である愛しい娘に呼び掛けるような言葉なのだ。  ――王子の后となられるには、まだお若すぎるかと思わないでもありませんでしたが、どうしてどうして。なんとも似合いのめおとであらせられる、と。  ある臣が言う。     
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加