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わたしは、かぶりを振って「いいえ、アルにいさま」と応じる。
そして、アルトナルの正装の腰帯に、甘えた仕草でしがみついた。
アルトナルは小さく笑って、わたしの髪をクシャクシャと撫で回す。
「アルにいさま、にいさま……」と、アルトナルの逞しい胸に頬を擦りつけて、わたしは、ただ仔猫の鳴き声で良人を呼び続けた。
「にいさま、だいすき、大好きです。お慕い申し上げています……アルトナルさま」
「我も、お前を愛しく思うぞ、ソウレイ」
低く男らしい、そして優しい声が触れ合う肌を伝って、わたしの身体の内、奥深くを震わせる。
きつく、きつく抱きしめて欲しい。
この身が砕けてしまうほどに。
ああ、どうか……。
なのに、わたしのくちびるは、頼りない子供の声を紡ぐ。
「アルにいさま、『ぎゅっ』として」
ひとつ軽やかな笑い声を洩らして、アルトナルはわたしの肩に腰に腕を回した。
「……可愛いレイ、愛しい我が妻」
囁きとともに、髪に額に、くちづけが落ちてきた。
ちいさなちいさな、触れるだけの小鳥のくちづけが。
アルトナルのくちびるが、わたしの頬を鼻先を軽く啄む。
ああ。
違う……にいさま、そうじゃなくて。
どうか、どうか。
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