4/5

87人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
 わたしは、顎を上げて精いっぱいの背伸びをすると、アルトナルの頬に両手の指を伸ばした。 「どうか、にいさま……くちづけを、わたしの」  くちびるに……という言葉は、吐息に掠れてしまったけれど、多分、アルトナルの耳に、それは届いていた。  そして、遂にやっと。  わたしのささやかな望みは叶えられる――  くちづけが。  生まれて初めての、そして良人からの初めてのそれが。  わたしのくちびるを、熱く塞いだ。  ぐらりと足元の草地が回り、わたしはアルトナルの袖に縋りつく。  するとアルトナルのくちびるが、すっとわたしから遠ざかった。 「…や、いやぁ、アルにいさま」  悲鳴に近い声を上げたわたしを、アルトナルは、黄金(きん)色の目をどこか寂しげに眇めて見下ろす。そして。   「やめ…ないで、やめないで……」と、繰り返すわたしのくちびるに、アルトナルが再びくちづけた。  熱い舌に、くちびるをなぞられて。  首筋にとろける痺れを感じるやいなや、わたしの口はふわりと開かされた。  アルトナルの舌が、奥深くへと侵入してくる。  上顎を舐めとられた。  同じように、アルトナルの内を味わいたいと、わたしの舌もはしたなく蠢いて、でもそれは、アルトナルの舌にくるりと絡め取られてしまう。     
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加