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わたしは、顎を上げて精いっぱいの背伸びをすると、アルトナルの頬に両手の指を伸ばした。
「どうか、にいさま……くちづけを、わたしの」
くちびるに……という言葉は、吐息に掠れてしまったけれど、多分、アルトナルの耳に、それは届いていた。
そして、遂にやっと。
わたしのささやかな望みは叶えられる――
くちづけが。
生まれて初めての、そして良人からの初めてのそれが。
わたしのくちびるを、熱く塞いだ。
ぐらりと足元の草地が回り、わたしはアルトナルの袖に縋りつく。
するとアルトナルのくちびるが、すっとわたしから遠ざかった。
「…や、いやぁ、アルにいさま」
悲鳴に近い声を上げたわたしを、アルトナルは、黄金色の目をどこか寂しげに眇めて見下ろす。そして。
「やめ…ないで、やめないで……」と、繰り返すわたしのくちびるに、アルトナルが再びくちづけた。
熱い舌に、くちびるをなぞられて。
首筋にとろける痺れを感じるやいなや、わたしの口はふわりと開かされた。
アルトナルの舌が、奥深くへと侵入してくる。
上顎を舐めとられた。
同じように、アルトナルの内を味わいたいと、わたしの舌もはしたなく蠢いて、でもそれは、アルトナルの舌にくるりと絡め取られてしまう。
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