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アルトナルという類いまれなる王者の資質を持つ、尊敬置く能わざる王子に娘を嫁がせること自体が、父にとっても、身の震えるような栄誉だったに違いない。
こんな幸運が、恩寵が。
まさか自分の身に与えられようとは、まったく思っていなかった。
これが本当のことだなんて思えなかった。
きっと「夢」をみているの。そうに違いない。
だって、こんなことが起きうるはずがない。
そんなことをぐるぐると考えるはしから、頭の中が白くかすんで、わたしは正気を失いかけてしまう。
王の使者の来訪から、三日三晩、わたしは高熱を出して寝付いてしまった。
そして、寝台の上に起き上がって薄い粥を啜れるようになった頃。
アルトナルが、わたしの見舞いに訪れた。
部屋へと入ってきたアルトナルは、本当に気高く、そして雄々しくて。
その眩しさに、わたしは目がくらんでしまう。
「久方ぶりだ、ソウレイ。具合はどうだ? 熱が高かったと聞いた」
そう言って、アルトナルは、わたしの額に大きな掌を押し当てた。
頬が顔が、一気にカッと熱を帯びる。
「まだ熱っぽいようだ。見舞いが早すぎただろうか」
黄金の瞳を眇めて、アルトナルが、ごく気づかわしげに、わたしの顔を覗き込んだ。
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