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 良人に懇願を無視され、置き去りにされ。  あまりの情けなさと切なさに、涙を浮かべずにはいられなかったわたしは、薬師に背を向けて、枕にきつく顔を埋める。 「后よ、いかがなされた」  なんの感情も読み取れない声が、わたしにそう訊く。 「今宵は『火照り』を持て余しておいでだと伺い、参上いたしましたが」  その声はとても不快で不快で、わたしは上掛けを引き被って、きつく両耳を塞いだ。  薬師がごく小さな溜息をつく。 「どうやら、気持ちが昂りすぎておられるご様子……すこし、お気を緩めていただいた方がよろしいようで」 「い…や…」  わたしは、上掛けの中で震える声を絞り出す。 「あっちへいって、出ていって」 「后のご命とはいえ、そういうわけには参りませぬ」  薬師が淡々と続けた。 「……一度の機会とて無駄にはできませぬゆえ。さらにソウレイ様の月の御巡りにおかれましては、この数日が、おそらく最も陽の気が高まっておられる頃合いのはず」  そして何かの準備を整える物音がして、部屋の空気がフワリと変わりはじめる。  ――香を、焚いているの?  甘いような冷たいような。  不思議な香りが、少しずつ強まってくる。    ――いい香り。     
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