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薬師の言葉に、わたしの中で何かが弾けた。
「いやよ、こんなことは、もうたくさん」
わたしは薬師を押しのけ、寝台から飛び起きる。
「出ていって、早く! ここから、出ていきなさい」
自分でも驚くほどにきつい声音の言葉が、口をついて洩れた。
けれど薬師は、くちびるの端すら睫毛の先すら震わせることなく、寝台の脇に佇んだまま動かない。
ならばと。
わたしは、はだけた衣をかき合わせながら、廊下につながる扉へと歩き出す。
肩が、大きな手にきつく掴まれた。
薬師が、わたしの腕を取って羽交い絞めにする。
「ぶ…れいな……」
驚きと、そして得体のしれぬ怯えに、わたしの声はどうしようもなく震えた。
それでもわたしは、できうる限りの威厳を振り絞って、薬師に命じる。
「手を、はなしなさい」
けれど、わたしを捕える腕は、わずかも緩みはしなかった。
「痛い、はなして、いたい……たすけて、にいさま、アルにいさまっ」
わたしが、そう声を振り絞ろうとしたところで、口もとに薬師の掌が押し当てられた。
「気をお沈めください、ソウレイ様……」
薬師が言う。
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