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「しかし、いくらそのように声を上げられても、もうおそらく、王子の耳には届きますまい」  そんな禍々しい預言めいた言葉が 薬師の口から吐き出された。  すると厚い壁を通り抜け、激しく睦み合う声が、隣室から漏れ聴こえ始める。  常よりもずっと、荒々しい物音。常よりもずっと、激しい声。  ああ、この遠吠えは、どちらの獣の?  黒い獣のシグルドなの。  それとも。  高貴な黄金の瞳を持つ鷹の嘶き? 「いやよ、聴きたくない、こんなの。もう厭、いや」  泣きじゃくって悶えるわたしを、薬師は寝台へと押し付ける。  そして、ひどく冷たさを増した声でこう告げた。 「ソウレイ様、そのような我儘は許されませぬ。貴女さまは王子アルトナルの后、王位を継ぐ子を成すが、后の務め。貴女の責務なのです」  わたしは、王子の妻。  将来の王妃。  わたしは、アルにいさまの御子を成さなければならない。  我の子を産んでくれと。  にいさまに頼まれた。  お前には、我に妻として抱かれることはまったくないと思っていて欲しい――  アルにいさまは確かに、そうおっしゃった。  それでも、求婚に「是」と応じたのはわたし。  だって、愛しいにいさまが、わたしを頼ってくださったのだ。  国母になって欲しいと。  そんな重責を託してくださった。  ああでも。     
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