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 悦びと切なさと、そのほか、なんと言っていいのか分からない思いが胸いっぱいに込み上げて、わたしはただ、ふるふると頭を横に振り続けることしかできない。  そんなわたしの様子に戸惑うように微笑して、アルトナルが言った。 「少し合わぬ間に、すっかりと大人びたのだな、ソウレイ」  そう。  わたしが「にいさま、にいさま」と、アルトナルの傍にじゃれついていられたのは、本当に幼い時分のことだった。  その後、すぐに元服した彼は、王の長子として政務に戦にと多忙な日々を過ごすようになったから―― 「こたびのこと、お前にとって重荷ではなかっただろうかと心配していた。突然に娶りたいなどと……お前ももう、よい年頃、誰ぞ心に決めた相手がいてもおかしくはないだろうし」 「そんな、そんな方は……おりません、にいさま、アルトナルさま」  わたしはやっとのことで、それだけを口にする。 「本当か? ソウレイ。よいのだ、我にだけは本心を吐露してくれて。お前が望まないのであれば、この話はなかったことにできる。そもそもこれは、我が父王に頼んで取りなしてもらったこと。まだ正式に臣会(シング)に諮ってはいない」  にいさまが……。  おんみずから、わたしのことを?  溢れ出る悦びに、わたしの頭には、さらに血が上ってしまう。  支えなしに座っていることが難しいくらいだった。     
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