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そんな風に、薬師に諄々と言い聞かせられて、アルトナルも、それ以上に責め立てることができなくなる。
「早晩、后が懐妊できるよう、さらに術を探りさらに努めよ」とだけ言い置いて、アルトナルは薬師の前から去っていった。
ああ、アルにいさまは。
ずっとずっと前から、あの薬師に「このこと」についての知恵を求めていたのね……。
図らずも盗み聞いてしまったふたりの会話から、わたしはそんな風に察し取る。
でも、それは一体、いつからだったの?
にいさまは、いつからこんな……。
こんなことをお考えになられていたのかしら。
*
きらめく夏はあっという間に過ぎゆき。
冬はすぐさまやってきた。
寒くて。
暖炉にいくら火をくべさせても。寝台にいくら毛皮を敷き詰めさせても。
ただ、寒い。
薄寒い寂しさが邪魔をして、夜のわたしの肌は、決してあたたまらなかった。
昼間のアルトナルの訪いも、少しずつ間遠になっている。
「王子はお忙しいのですよ」
女官は、そう言ってわたしを慰めた。
「でも『夜』は、いつもご一緒にいてくださるのでしょう?」と、かすかに微笑んで。
たしかに、アルトナルは忙しくしていたのだ。
谷間に掛かる西の橋が古くなっていて、雪がひどくなる前に、しっかりと補強をしておく必要がある。
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