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南の砦の方にも、気にかかることがある。
そんな冬支度の色々を、アルトナルは、わたしにも聞かせてくれていた。
でも。
きっと、それだけじゃなくて――
アルにいさまは、わたしに失望なさったのかもしれない。
いつになっても、「やや」を孕まないわたしに。
帰りたい。家に帰りたい。
毛並みの良い、大きくて気立てのやさしい父さまの犬と暖炉の前に並んで座り、ばあやの作ってくれる温かい蜂蜜とショウガのお菓子を食べて。
可愛い甥っ子や姪っ子たちが、仔ウサギみたいにわたしにじゃれつく。
そして、わたしは、みんなのちいさな靴下を編んであげる。
でも、それは無理だ。
御子も産めぬまま実家になど戻れば、それは「もう王城へ上がる必要もない」と言い渡されたと同じ事だと。
父さまも母さまも、親戚たちも、臣会の家臣たちも、みな、そう思うだろう。
わたしは、どこに行けばいいの……?
いいえ、どこにも行くところはない。
わたしには、アルにいさましかいない。
早く、ややを。
にいさまの世継ぎを、この身に宿さなければ。はやく。
*
めずらしくうららかな陽ざしが差し込む晩秋のある日。
昼前の明るい時間に、アルトナルが、わたしのもとへと姿を見せてくれた。
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