11

3/5

87人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ
 南の砦の方にも、気にかかることがある。  そんな冬支度の色々を、アルトナルは、わたしにも聞かせてくれていた。  でも。  きっと、それだけじゃなくて――  アルにいさまは、わたしに失望なさったのかもしれない。  いつになっても、「やや」を孕まないわたしに。  帰りたい。家に帰りたい。  毛並みの良い、大きくて気立てのやさしい父さまの犬と暖炉の前に並んで座り、ばあやの作ってくれる温かい蜂蜜とショウガのお菓子を食べて。  可愛い甥っ子や姪っ子たちが、仔ウサギみたいにわたしにじゃれつく。  そして、わたしは、みんなのちいさな靴下を編んであげる。  でも、それは無理だ。  御子も産めぬまま実家になど戻れば、それは「もう王城へ上がる必要もない」と言い渡されたと同じ事だと。  父さまも母さまも、親戚たちも、臣会(シング)の家臣たちも、みな、そう思うだろう。  わたしは、どこに行けばいいの……?  いいえ、どこにも行くところはない。  わたしには、アルにいさましかいない。    早く、ややを。  にいさまの世継ぎを、この身に宿さなければ。はやく。  *    めずらしくうららかな陽ざしが差し込む晩秋のある日。  昼前の明るい時間に、アルトナルが、わたしのもとへと姿を見せてくれた。     
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加