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「ソウレイよ、冬に閉じ込められる前に、お前も少しは、外に出ておくがよかろう」
そう言って、やさしくやさしく微笑み、アルトナルがわたしに手を差し伸べる。
あたたかくて大きな掌。
その手を取って、わたしは心の底から解けるように安堵した。
「アルにいさま。だいすきなアルにいさま……」
そう寄る辺なく口ずさんで、わたしはアルトナルの腰帯に腕を回して縋りつく。
侍女たちが、からかうように、でもどこか嬉しそうな忍び笑いをクスクスと洩らした。
そして、「それでは、外套を取ってまいりましょう、しばしお待ちを、アルトナル様、ソウレイ様」などと、口々に言いながら、部屋を出て行く。
アルトナルに連れられて表に出れば、馬の準備ができていた。
遠くまで駆ける算段なのか、馬は二頭。
アルトナルの鞍の前に乗せられるのではなく、ひとりで馬を駆るのは久しぶりだった。
手綱が少し、手に重い。
馬の動きに身体を揺らさないよう、しっかりと鐙を踏みしめるのも、なぜかひどく骨が折れる気がした。
遠乗りや速駆けは、不得手ではなかったのに……。
日々の「務め」に、自分が思っているよりもずっと、心身が疲れて果てていたのだということに、その時はまだ、わたしは気づかずにいた。
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