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どうして、わたしの肌を、直接愛してくださらないのですか、と。
そこまでに、あからさまな問いを口にすることはできなくて。
また、わたしは黙り込む。
いたたまれない沈黙が、痛いように落ちてきた。
「空気が湿り気を帯びてきたようだな……」
アルトナルが呟いた。
「荒れ模様になる前に、急ぎ城へと戻った方がよさそうだ」
アルトナルは手綱を引いて馬を振り返らせる。そして、鎧を踏みこみ、馬腹にひとつ蹴りを入れた。
馬が歩き出す。
わたしは、じわりと熱っぽくにじみ出ていた涙を子どもっぽく手の甲で擦り落として、アルトナルの後に続いた。
アルトナルの馬は、灌木の茂みを滑らかに通り過ぎていく。
肩に脚に、どっと疲れが押し寄せていた。
わたしは少しずつ、アルトナルの馬に遅れを取っていく。
すると、わたしの髪が枯れ枝の先に引っかかった。
均衡を崩して、わたしはとっさに手綱をきつく引き寄せてしまう。
驚いた馬が、前足を高く上げて跳ねた。
いつもなら、わたしは、そのくらいのことで馬の背から落ちたりはしない。
でも、その瞬間、指から手綱がすり抜けて。
後ろ向きに倒れるようにして、わたしの身体は鞍から滑り落ちた。
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