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13  身体が、地面に叩きつけられる。  でも、その衝撃は予期していたより鈍かった。    誰かがわたしの腕を掴んでいる。  黒い馬の脚が見えた。  近衛の制服。  シグルド……? 「后よ、どうかお気を確かに」  黒い騎士が鋭い声で、わたしに呼び掛けた。氷河のように蒼い瞳が、わたしを見つめている。  ついてきていただなんて。  このひとが。  そうだわ。いつだって、このひとはアルトナルの傍にいるの。  傾く冬の陽ざしに長く伸びる影みたいに、遠く、近く……。  ――ソウレイ!  アルトナルの声と蹄の音が近づいてきた。 「どうしたのだ、しっかりしろ」  そして、近衛の騎士に鋭く問いかける。 「何があった、シグルド。后はいかがしたのだ」 「畏れながら王子……ソウレイ様におかれましては、ふと馬上でふらつかれ、馬が跳ねた拍子に鞍から」 「なんと……」  そう口にして、少し絶句してからアルトナルは、わたしの頬に触れる。 「ソウレイ、どこか痛むのか? 返事をしないか」 「へい…き」  わたしは瞬いて、アルトナルを見上げる。  視界は、ぼんやりとかすんで揺れていた。 「どこも、いたくはない…の」  目の前が、すうっと明るさを失っていく。     
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