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そして、アルトナルとシグルドの声も、遠のいていく中。
近衛の長は、わたしとアルトナルとの話を、わたしの恥ずかしい懇願を聴いていたのかしら……と。
そんなことを考えていた。
*
めずらしく后と遠乗りに出かけた王子アルトナルが、気を失い、頬を人形めいて青白くした妻を、その腕にしかと抱き、城へと駆け戻ってきた直後、氷雨が降り始めた。
「薬師を呼べ、早く……!」
めったになく上ずった王子の声に、侍女たちも口もとをこわばらせて駆け回る。
寝台が整えられ、急ぎ暖炉の火がかき熾された。
侍女たちは、后の身体から外套を脱がせ、衣の帯をくつろがせてやわらかな寝着に着替えさせる。
そして、薬師が姿をあらわした。
ひと払いがされた。
侍女たちは、気づかわしげにソウレイを振り返りながら部屋を出ていく。
薬師が、「ソウレイ様におかれましては、いががなされたのです」と訊ねれば、
「鞍から落ちたのだ」と、滲む焦りを隠そうともせぬまま、吐き捨てるようにしてアルトナルが応じた。
「どのような落ち方を? お身体で強く打たれたところなどは?」
薬師のこの問いかけには、傍に控えていたシグルドが、すかさず、
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