87人が本棚に入れています
本棚に追加
「地面にたたきつけられる前に、私が腕をお支えした。それほどひどい落馬ではない」と応じる。
「だが后は、そのまま気を失ってしまったのだ」
シグルドを遮るようにして、アルトナルが続けた。
「薬師よ、もしや……」
アルトナルは、その黄金の鷹の瞳を、険しく眇める。
「もしや后には、『やや』ができていたのではなかろうか……ああ、馬に乗せたりなどすべきではなかったのだ。顔色が優れないようだから、少し外の空気に触れるのもよかろうと、そう思ったのだ。だが、我の判断が誤っていた」
「いいえ……アルトナル様、そのようなことは、決して」
シグルドが、その逞しい腕をそっと王子の肩へと伸ばした。
アルトナルの繰り言を聴いているのかいないのか、薬師は無言のまま、ソウレイの脈を取り、肌に触れ、その様子を確かめていた。
そしてゆっくりと振り返り、「王子よ」と、ごく冷静に呼び掛ける。
「ソウレイ様が、ご懐妊召されているか否かについては、まだ『そう』と分かるほどに月の巡りは経ておりませぬゆえ。そのお考えは杞憂かと」
「子は孕んでいないと?」
「おそらくは」
薬師の返答に、アルトナルは、どこか刺々しさをまとった震える吐息でのみ応じた。
そして、
最初のコメントを投稿しよう!