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半裸の肩に毛皮を纏いながら、王子アルトナルは、共に寝台の内にある黒髪の男へと鋭く言い返した。
「我が『あれ』を抱けないというのは、最初から分っていたことだ。そのようなことは……誰より、誰より、お前が一番よく知っておろうが」
「アルトナル様、私が言わんとするのは、そのようなことではなく」
近衛の長、シグルドがごく低く、アルトナルに応じる。
「ただ、ソウレイ様があまりにお気の毒で……申し訳なく」
「そなたも…そうやって我を責めるか」
ひどく苦々しく、噛みしめるようにして、アルトナルが呟いた。
シグルドがすかさず、「いえ、私は、けっして…そのような!」と、蒼い目を見開く。
「いいや、責めているのだ、お前も。レイと同じように、我を」
「おやめください、王子アルトナル」
真に忠義な賢臣のみが上げうる諌言の声音で、シグルドがアルトナルを制した。
そして、美しく凛々しい若い主の頬を、大きく逞しい掌でそっと包む。
くちびるが、引き寄せあった。
舌を、口腔を貪りあうように。互いに薄く瞼を開いたまま、男たちはくちづけを交わす。
荒い吐息と絡み合う水音が、夜の闇に溶け出して漂い出した。
やがて、くちづけが終わる。
ひとつ、深い溜息を吐き出して、アルトナルが、ふたたび口を開いた。
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