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花嫁にふさわしい晴れやかな顔色を取り戻させねばと、皆はあらゆる薬草を煎じて、わたしに飲ませた。芳しいショウビの花びらを煮出した露を、毎日ふんだんに頬に瞼に振りかけられた。
でも、わたしの頬もくちびるも青白いままだった。
国で一番尊いひとの妻となる。
それは、まだ年若いわたしには悦びであるとともに重責でもあるはず。
きっと神経が張り詰めているのだろうと。
ついには皆も、そうやって、わたしに同情してくれた。
でも違うのだ。
そうではないことを、わたしの他には誰も知らない。
そのわけを知るのは、わたしと、わたしの良人アルトナル。
そして、もうひとりだけ――
儀式を終え、わたしはアルトナルに手を取られて歩き出す。
ちょうど神殿の出入口まで来たところで、外で待ち受けていた民たちが、どっと地を揺るがすような歓声を上げた。
まばゆい午後の日差しの元、ひとびとは口々に、「神々に愛された王子、いとも気高きアルトナル」を讃える言葉を発していた。
けれど、わたしの目の前は、どんどんと暗くなるのだ。
これは夢。
そうだったらいいのにと。
そんな考えが、頭をかすめる。
でも、受け入れたのはわたし。
拒まなかったのはわたし。
いまさら、なにもかも、すべては遅すぎる――
でもそれでも。
わたしは「このまま時が止まってしまえばいいのに」と、そう願わずにはいられない。
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