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 吹きさらしの見張り台に、ざあっと凍る風が吹き抜けた。  その力に背を押されるようにして、両手を宙に差し伸べ、わたしはさらに身体を前へとのめらせる。  すると、(くう)へ羽ばたこうとするわたしの腕が、引きとめられるようにして強く掴まれた。  反動で背後へと倒れるわたしの肩が、何か固いものに打ち当たる。  少しの間の後、それが騎士の略装の胸当てであることに、わたしは思い至った。 「一体、何を……! ソウレイ様」  近衛の長、騎士シグルドが、ごく低い声で冷たい空気を震わせた。 「こんなところで、何をなさるおつもりだったのですか」  わたしは無言でシグルドの身体を押しのける。そして、両手に拳を作ると騎士の肩を腕を、それから顔を打ち据えた。  ああ、この者こそ……。  わたしの良人の情人なのだ。  夜ごと、わたしからアルトナルを奪っていく憎き男なのだと。  そんな事々が途切れ途切れに頭の片隅に浮かんでは、何一つまとまりを帯びぬまま霧のように飛び散って。  気づけば、わたしは、両目に涙を溢れさせていた。  塀から落ちぬよう、その逞しい片腕で暴れるわたしの身体をしっかりと支えながら。  騎士はただ、わたしに打たれるがままに立ち尽くしていた。     
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