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心地よさが頭を真っ白にしてしまうほどには決して強まらず、けれど悦楽の埋火を消さぬ程度には、わたしを佳くする……。
そんな愛撫が、胸の尖りに施され続けた。
宙ぶらりんな刺激に焦れそうになれば、薬師は舌を使って、尖りの根元を突く。
その瞬間だけ、蜜口がきゅっと締まるような悦楽が身体を貫いた。
そんな、せつなすぎる時間が長引けば長引くほど。
わたしの頭の中では、あらゆる考えが千々に乱れて渦を巻く。
はやく、はやく快楽を遂げてしまいたいという焼けつくような望みと。
わたしの胸の尖りを弄び、嬲りつくしているのは、本当はアルトナルではなくて、まるで違う男なのだということ。
わたしを置き去りにして。
愛する良人は、別のひとと情愛を交わし合っているのだという事実――
竪琴の名手である年若い叔父。
彼の奏でる弦の音色が、ふと脳裏をよぎった。
そしてそれは、音量と速度を増していく。
わたしの内で、焦りが募り膨れ上がる。
なにかが……。
わたしの中で、その時、何かが振り切れた。
薬師を押しのけるようにして、寝台から飛び起きる。
身体を覆う役割をほとんど果たさぬ様子の寝着の裾をひらめかせ、わたしは扉へと駆け寄った。
続き部屋の扉へと――
その糸杉の戸は、常のとおり完全に閉ざされてはいなくて。
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