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頼りなく腕を差し伸べて押すだけで、音もなく開いていく。
アルトナルの寝台は部屋の隅に置かれたランターンの灯で、浮かび上がるように薄く照らされていた。
天蓋の内に、ふたつの人影。
幕は完全に閉じ合わさってはおらず、めくれ上がった隙間から逞しい男の肌が見える。
交接が行われていた。
乱れ切った寝台の上、まるで屈服を強いられるかのように、うつ伏せに身体をこわばらせているのは、わたしの愛しいひと。
「神々から愛された王子」
尊きアルトナル――
その背後から、牡馬の気迫で覆いかぶさるのは黒い騎士だった。
苦しげな悲鳴は、だれのもの。
アルにいさまの?
それとも、近衛の長シグルドの?
その区別はつかない。
だって、常の彼らの声とは似ても似つかない。
やがて、絶え間なく上げられている嬌声がアルトナルのものだと分かり、わたしの瞼が知らず熱を帯びた。
涙が、ただ溢れ出す。
アルトナルが、大きく身体をそらした。
胸元が、そして腿の付け根が、薄明かりの下であらわになる。
不思議な感じがした??
なぜ「不思議」などと感じたのか。自分でも分からない。
でも、なにかがおかしいのだ。
アルトナルの下腹部には大きな傷があった。
そう。
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