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19  降雪をおしての葬列だった。  市井の民草であれば墓穴を掘り返すことにも難儀する、この時期の葬儀。  だが、優麗な霊廟を有する王の一族には、その苦労もない。  王子アルトナルの后であれば、そこへ亡骸を横たえる資格は十分だった。  齢、十七。  まだ、ほんの咲き始めの愛らしい金鳳花(ソウレイ)の死を、国中が悼んだ。  急な病を得て、あっという間のことだったと。  仔細は語られず、そのような話だけが表にされた。  葬列の中央、色とりどりの花で彩られた棺。  季節柄、入手がほとんど不可能と思われるそんな花々は、侍女や近衛や民たちが、一輪、また一輪と雪をわけて探し出して持ち寄ったものだった。  けれども、その棺の内には年若い后の可憐な骸はなく、詰められているのは数個の砂袋であることを知るのは、ただ三人だけ。  良人たる王子アルトナル、近衛の長シグルド、そして。  城医の薬師だけだった――      *  ――骸は見つからなかった。  良人と愛人との情交を、男と男の肉の交わりを目の当たりにし。  そして、自らが夜ごとに胎に受け入れていた精が、良人の種ではなかったことを知って。  ソウレイ様は、夜闇の中へと飛び出していった。     
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