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 一糸まとわぬ姿で淫技に耽っていた騎士も王子は、すぐにソウレイ様を追いかけることはできず。  さらには、王子と后の夜の閨には、厳しくひと払いがされていたこともあり、闇の中に駆け出でるソウレイ様の姿を認めたものは、誰もいない。  王城の三方を囲むは、谷と森。    谷に落ちれば命はない。  底は深く、切り立った崖に阻まれ、落ちた骸を確かめることすら難しい。  森は広い。  王子とシグルド、そして吾は、ただ三人で夜を徹し、森を探し続けた。  翌朝早く、枝に絡まったソウレイ様の寝着の切れ端が見つかった。  木々が深く生い茂っていたせいか、まださほど雪のつもらぬその場所には、果たして、血の痕が残っていた。  冬にうろつく動物は少ないが、骸を餌食とする鳥や獣の姿がないわけではなく。  絶望と疲れに、王子は頽れた。  その肩を、騎士シグルドが抱きかかえる。 「して、王子よ……いかがいたしましょう」  吾が、そう問い掛ければ、アルトナル様は、すぐさま自らの立場に思い至った。   「『我が后ソウレイは急な病を得て床に臥した』と。深刻な病状ゆえ、薬師の他は誰も近寄ることは罷りならぬと。すぐに城内の者に、そう伝えよ」 「アルトナル様、では、ソウレイ様の行方は……」  シグルドが、腕の内の情人に囁きで問いかける。     
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