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ささやかな山荘があった。
岩山と森が入り組んだ場所に、風景に溶け込むようにして、苔むした石と古い木々で組み上げられた家。
雪が溶け、冬の内には葉を落とす類いの木々が、ふたたび萌えいで始める小道を、一頭の馬が並足で駆けてゆく。
午後の陽ざしが、すこしずつ陰りを見せていた。
だが陽が落ち切る前に、馬と馬上の男は山荘へたどり着く。
厩に馬をつなぎ、鞍を下ろして水と飼葉を与えてやってから、男は家へと足を踏み入れた。
きらめいて渦巻く長い金の髪をなびかせて、まだどこかあどけなさを残した若い娘が、頼りない足取りで駆け寄ってくる。
「おかえりなさいませ、にいさま」
娘は男の腰帯に縋りつき、逞しい胸板に鼻先を摺り寄せた。
男は、娘の滑らかな黄金の巻毛に指を絡めながら、
「寂しくさせたな、レイ。お前に土産だ」と、手にした花冠をそっと娘の髪に載せてやる。
「……アルにいさま?」
レイと呼ばれた娘は、おずおずと自身の頭へと指先を這わせた。
「金鳳花の花冠だ」
男は、今のささやかな贈物が何であるかを教えてやって、
「とても良く似合う、我の可愛い后よ」と、娘の耳元で囁いた。
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