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すっかり日が落ちて暗くなった道を、マキに連れられて歩く。身に染みるような寒さに体を縮こめてトボトボと歩いていると、すでにコタツが恋しくなっている自分に気づいた。あの暖房器具は反則だと思う。人を駄目にする気持ち良さだった。
どれくらい歩くのかと前を行くマキに声をかけようとした時、マキは前方にコウヤを見つけて「お待たせしました」と駆け寄って行くところだった。コウヤは相変わらずむさ苦しい汚れた格好で、何か独特な建物の入り口の前で手提げを持って佇んでいた。ああ、ここが銭湯なのね。と私はその建物を繁々と観察する。
「おい、リリ。こっちに来い」
横柄な物言いで名を呼ばれ、私は口を尖がらせて二人の近くへと足を向けた。コウヤがどこか偉そうな雰囲気なのは、社長という肩書きがあるせいなのか、元からの性格なのか。見た目は全く違うのに、どこかゲームの世界の御堂と似ていることに、私は変な胸のざわめきを感じる。
「どうだ。部屋は気に入ったか」
「ええ。広さや調度品はともかく、コタツは素晴らしいわ」
そうか、と組んでいた腕を解き笑ったコウヤだったが、マキに向き直ると顔を引き締めた。
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