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彼女のご両親がその場を去った後、俺は花の入った紙袋をそっと置き、手を合わせ、目を瞑る。
「私ね、『紫苑(しおん)』っていうお花が大好きなの。え、その理由?
あー…、なんだったっかしら。
えっと、あっそうそう。昔、まだ病気になる前にね、男の子とね、喧嘩しちゃったのよ。
それでね私、仲直りしたかったんだけど、中々言う勇気がなかったのよ。
でもね、その男の子がね、私に、花冠を作ってくれたのよ。
それが紫苑だった。凄く凄く嬉しくって、花言葉を調べたらますます大好きになったのよ。
それが私の初恋。
その子に何だかあなたは似ている気がするわ」
と、彼女の言葉を思い出して再び涙を流してしまった。
俺はすぐさま目を服の裾で強くこすった。
(また、格好悪い所を見せるところだった)
と、思いながら、俺は
「これ、俺からのプレゼントだ。こんな昔のものを覚えてるなんて、思いもしなかったよ」
と言い、俺は紙袋から紫苑の花冠を取り出し、目の前の冷たい石にそっと飾る。
その花冠は、どうみても不格好で、子供の頃に作ったものと大差が無かった。
子供の頃から不器用で、鈍感だったのだなと飾った花冠を見ながら俺は思った。
花冠が飾られた場所にはこう記されている。
「愛する人よ。安らかに眠れ」
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