1人が本棚に入れています
本棚に追加
ベルが屋敷の中に入って最初に思ったのは、
(い、意外と散らかってるかも……)
……だった。
玄関ホールは薄暗く、通された客間は……なんというか、埃っぽかった。
棚からあふれた置物や本が雑然と床に積まれ、絨毯にはいくつもシミがある。年季の入った染み入り方だ。
ルーシーは腰に手を当てて、
「……ベルちゃん。別の部屋にしましょ」
次に案内された居間は、客間以上にすごかった。
それなりに広い部屋なのだが、やけに狭苦しく感じた。
本、書類、食器……いろんなものが散らばっている。
誰かが寝ていてそのまま這い出たような形状の毛布もある。
テーブルには上着、ソファには下着。脱いでそのまま放り投げたといった感じでぶら下がっていた。
「きゃー! 昨日飲んだまま寝ちゃったから……ベルちゃん、ちょっと待ってて!」
ルーシーは叫び、床に這いつくばって片付け始めた。
ベルは、クールな雰囲気のルーシーがあたふたしている姿に親しみを感じた。
「あ、手伝います……」
ベルは思わず口走った自分に慌てた。
「あ、すみません! 良かったら、ですけど!」
すると、ルーシーがソファの向こうからヒョコリと身を起こした。
「ほんとに? 助かる! お願い!」
彼女は顔を輝かせた後、少し思案した。
キョロキョロとあたりを見回す。
「じゃ、とりあえず、床の本とか書類をお願いできる?」
「はい!」
ベルは明るい声で即答した。
なんとも言えないうれしさがこみ上げた。
「とりあえず積んで、壁際に寄せといてくれればいいから」とのルーシーの指示に従い、ベルは本や紙の束を片付けた。
(難しそうな本ばっかりだ……)
学術書というのだろうか、紙の束のほうは知らない文字ばかり。外国の言葉だろうか……
「……っ!」
また、頭痛だ……。
痛みの渦に巻き込まれる瞬間、優しい手がベルの頭を撫でた。
「ベルちゃん、お手伝いをありがとう!」
「いえ、どういたしまして……」
「本当に助かったわ。すぐお茶を淹れるわね。頼みまくって悪いけど、空気も入れ替えたいし窓を開けておいてくれる? 風と木漏れ日が気持ちいいわよ」
ベルが頷くと、ルーシーは機嫌良くキッチンへ向かった。
(ルーシーさんが撫でてくれたら痛いのが治った……?)
頭痛はすっかり消えていた。
窓を開けると、爽やかな風がベルの髪をそよがせた。
最初のコメントを投稿しよう!