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「く……はっ……」
苦渋に満ちた今際の吐息。ルーシーの美しい口元から一筋、血が流れた。
アディは冷たい眼差しのまま、乱暴に剣を引き抜いた。
傷口から大量の血があふれた。
ルーシーは何か言いたげにアディをまっすぐ見据えたが、その目はすぐに焦点を失い始めた。
痛みに歪んだ表情が弛緩していく。
全身から生気が失われていく……。
(お……にい、ちゃ……、ルーシぃ……さん……)
ベルはまるで自分が刃で貫かれたかのように、気を失いそうだった。
信じられなかった。目の前の光景が。
(どう……して……?)
ベルが気絶する直前、
クス。
何度か聞いたことのある微笑。ベルのすぐそばで聞こえた。そして優しく頭が撫でられた。
「え……えっ!」
ベルは一気に意識を取り戻した。
ルーシーが、ベルを後ろから抱き止めるようにしていた。
彼女の口元には穏やかな笑み。
(え、だって、ルーシーさんは……)
ベルは兄・アディを見た。
兄の剣がぐさりと刺さったその先に、ルーシーがいる……
(あ……れ?)
兄の前で血まみれになっているルーシーの姿は、徐々に薄れ、靄のように溶けていった。
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